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日本が抱える11の「分断」
安宅さんは「分断」がテーマだという事で、日本の社会が抱える11の分断をスライドで見せ、「これはまさにダイバーシティそのもの」だと語りました。そして、その中でも特に8つの分断について、詳しく説明しました。
安宅さんが最初に説明した分断は、貧富の差です。日本の世帯のおよそ3分の1が貯蓄がない状態になっている状態は途方も無いと安宅さんは言います。
2番目は、ジェンダーです。国別男女別の労働時間内訳のグラフを示しながら、日本では男女ともに信じられないくらい長時間労働をしていて、男性は普通の一般先進国に比べて3分の1以下しか家事労働をせず、浮いている時間はすべて残業等に回っていると説明しました。そして、「女性は死ぬほど家事労働をしながら、給与労働時間はイタリアの倍という状況にあり、とんでもない話」だと語りました。
3番目は教育です。日本はそもそも人材教育に全然投資していない国で、特に高等教育のリーダー層において、女子学生の比率が低いことが問題だと指摘しました。
4番目はリソースの配分です。「日本のヘルスケアは大成功して90歳くらいまで生きられるのは最高に素晴らしい事だけれども、基本的には社会保険料は足りず、底抜けしている部分をすべて一般会計予算で補っている」と安宅さんは説明します。これはとても大きな分断であり、未来を創る人たちのためにこの問題をどう解決するのかと問いかけました。
5番目は富の創出で、「ほとんどの人はGDPがあって、その付加価値で儲けているけれども、富裕層のほぼすべてがキャピタルから儲けているのは大きな分断です」と安宅さんは指摘します。
6番目は、都市 対 疎空間です。限界集落問題は日本のみならず世界中で起きていて、「都市にしか向かわなければ、都市しか残らない未来になるが、このままで良いのだろうか」と疑問を投げかけました。
コロナは人間と地球のぶつかり合いの問題であって、パンデミックはこれからもやってくると安宅さんは言います。そして、都市に密集して暮らすことを中心としてきた人類は、「どうしてもOPEN & SPARSE(開放的でまばら)にすべきだと思っている」と語りました。
7番目は産業の分断です。産業は今「オールドエコノミー」「ニューエコノミー」「第三種人類」に別れており、サイバーの力を使ってリアルをアップデートするビジネスは全部第三種系に分類されると言います。オールドエコノミーと第三種人類は分断されていて、オールドエコノミーの人が第三種人類の方にいくことがいわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)だと安宅さんは説明します。DXを議論している間に第三種人類が世界の中心になっていて、これは大きな分断だと安宅さんは指摘しました。
8番目は「異人 or not」です。社会で未来を変える人(異人)と、出来た社会を回す人(各分野の中核人材)との間にはかなりのギャップがあり、「未来を変える人がいじめられることが途方も無い分断だ」と安宅さんは語りました。
公共空間をどうやって地域や歩行者に開いていくかを研究
最後に自己紹介を行ったのは、出口さんです。
出口さんは柏の葉で行われている様々な開発に携わっており、その中心的な役割を担っている「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」のセンター長や、柏の葉スマートシティを推進する「柏の葉スマートシティコンソーシアム」の統括コーディネーターを務めています。
専門は都市計画学、都市デザイン学です。コロナウイルスのパンデミックにより都市が逼迫した状況になっている中で、出口さんが会長を務める日本都市学会としても、ウィズコロナ、ポストコロナについていろいろな議論を進めていると言います。
出口さんは都市計画の中でも公共空間のデザインやマネジメントを専門としており、特に道路について詳しく研究しています。20世紀は自動車のために道路を作ってきたが、最近は世界的に道路を歩行者に開放することが大きな潮流になっていると説明し、これを日本の仕組みの中でどう実現するかを研究してきたと語ります。
公共空間は行政が法律やルールに基づいて管理をしていますが、地域が使えるようになっていないという問題があります。公共と民間、あるいは公共と公共との間の分断の象徴にもなっており、公共空間をどうやって地域に開いていく、あるいは歩行者に開いていくかを研究した成果も出口さんはまとめています。
DATA
登壇者名 栗栖 良依 プロフィール 認定NPO法人スローレーベル理事長
東京造形大学にてアートマネジメントを学ぶ傍ら、スポーツの国際大会や舞台制作の現場で実務を学び、長野五輪では選手村の式典・文化プログラムの運営に従事する。
2005-06年、イタリアのDomus Academyに留学し、ビジネスデザイン修士号取得。イタリアを拠点に世界30カ国でクリエイティブマーケティングのコンサルティングを実践するFuture Concept Labのトレンドリサーチャーとして世界各地を旅しながら、異文化・異分野の人や地域を繋ぎ、新しい価値を創造する活動を多方面で展開。
2008年より、国内の過疎化の進む地域で市民参加型エンターテイメント作品をプロデュース。2010年、骨肉腫を患い右下肢機能が全廃し、障害福祉の世界と出会う。2011年、アーティストと福祉施設や企業を繋ぎ、新しいモノづくりとコトづくりに取り組む「スローレーベル(SLOW LABEL)」を設立。2014年、障害者と多様な分野のクリエイターを繋ぎ新しい芸術表現を生み出す国際芸術展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を立ち上げ、総合ディレクターを務める。障害のある人が芸術活動に参加するための環境整備や支援人材の育成に取り組む。日本財団DIVERSITY IN THE ARTS舞台芸術部門プログラムアドバイザー。第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」、タイムアウト東京LOVE TOKYO AWARD2016「Face of Tokyo」受賞。東京2020総合チーム クリエイティブディレクター。登壇者名 安宅 和人 プロフィール 慶應義塾大学 環境情報学部教授 / ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)
データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学。
2001年春、学位取得(Ph.D.)。ポスドクを経て2001年末マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域中心メンバーの一人として幅広い商品・事業開発、ブランド再生に関わる。
2008年よりヤフー。2012年7月よりCSO(現兼務)。全社横断的な戦略課題の解決、事業開発に加え、途中データ及び研究開発部門も統括。2016年春より慶應義塾大学SFCにてデータドリブン時代の基礎教養について教える。
2018年9月より現職。内閣府 総合科学技術イノベーション会議(CSTI)基本計画専門調査会 委員、官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM)AI技術領域 運営委員、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長なども務める。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版、2010) 『シン・ニホン』 (NewsPicksパブリッシング2020)登壇者名 出口 敦 プロフィール 東京大学大学院新領域創成科学研究科 研究科長・教授 / 柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長
1990年東京大学大学院博士課程修了(工学博士)。東京大学助手、九州大学助教授、教授などを経て2011年より現職。
専門分野は都市計画学、都市デザイン学。都市のデザイン・マネジメント、スマートシティについての研究を進めている。
千葉県柏市柏の葉にある柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長、スマートシティコンソーシアムのコーディネーターなどを務め、全国のアーバンデザインセンターの普及やネットワーク化を進める一般社団法人UDCイニシアチブの代表理事を務める。