KASHIWANOHA DISCUSSION 4
FUSION of real and digital 挑戦を生む、クリエイティブな働き方と場。

「FUSION of real and digital 挑戦を生む、クリエイティブな働き方と場。」をテーマに議論を進めたKASHIWANOHA DISCUSSION 4では、CROSS TALK 4から引き続きご参加いただいた遠山 正道さん、サリー楓さんに加え、人間の体そのものを強くする「人間拡張」という新しい工学の領域を開拓し、柏の葉での実装に取り組んでいる国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 研究センター長の持丸正明さんにご登壇いただきました。コロナ感染拡大で進んだデジタルトランスフォーメーションの流れには、大きな組織よりも個人の方が柔軟に対応していること、最先端の技術やビジネスは街の中でこそ生まれること、変化に対応するにはマインドセットを変えなければならないことなどが、確認できました。

最先端は街の中にある。
デジタルとリアルを融合し、多様性に対応する。

遠山 正道(株式会社スマイルズ代表取締役社長 株式会社The Chain Museum 代表取締役社長)
サリー楓(建築デザイナー/ファッションモデル)
持丸 正明(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 研究センター長)

人に寄り添って人を高める技術を、柏の葉で産業化したい

 CROSS TALK 4では、「FUSION of real and digital 挑戦を生む、クリエイティブな働き方と場。」をテーマに、遠山 正道さんとサリー楓さんに議論していただきました。KASHIWANOHA DISCUSSION 4では、柏の葉の街をフィールドに、研究をビジネスに実装する試みに取り組んでいる、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 研究センター長の持丸正明さんにも加わっていただき、柏の葉スマートシティに何ができるのかを探りました。

 司会進行は、医療ジャーナリスト/キャスターの森 まどかさんが務めました。

 まず冒頭の自己紹介で持丸さんは「人間拡張」という技術を、次のように説明しました。

 「人に寄り添って、人を高める技術。生身でいるときよりも、人が情報技術やロボット技術を身にまとうことによって一時的に能力が高くなるだけではなくて、それを使い続けることによって生身の体も強くなる、こんなことをやりたいと思っています」

 例えば、要介護になった人たちの身体機能がそれ以上下がらず維持できたり、働けるようになったり、自分で生活ができるようになったりすることも一つの人間拡張と考えている、と持丸さんは言います。それをわかりやすく説明するために持丸さんが見せてくれたのが、2006年から8年間の全国介護保険レセプトのデータ2000万件を分析し、要介護度2の人が歩行器を使った場合と、使わなかった場合の身体機能悪化の割合を比較したグラフです。

持丸さんは歩行器が身体機能を一時的&本質的に拡張する例を示し、「人間拡張」技術について説明してくれました

 この研究では、歩行器を使わなかったグループの身体状態がどんどん悪化していくのに対し、使ったグループでは悪化する比率がずっと少なく、維持や増進している割合が多いとことがわかりました。

 持丸さんは、「歩く能力が足りなくなったときに使う歩行器はシンプルな人間拡張です。それを借りてきて、歩くという行為をずっとやっていると、生身の体も維持できたり増進できたりする。最初私が言ったようなことが、何か実現できそうな感じがします」と語ります。持丸さんたちは、IoT技術を組み込んだ歩行器を柏の葉周辺の豊四季台というエリアの世帯に貸し出して、長期間データを集める研究を行っているそうです。

持丸さんたちは、センシング、デジタル空間の人間機能評価モデル、リアルタイムの介入を何度も繰り返し、人の能力を高める研究をしています

「人間の状態を測るセンシング、疲労とか残存能力とかを評価するデジタル空間のモデルがあって、それに基づいてバーチャルリアリティとか情報提示とかロボットとかで人に働きかけをする、この三つをぐるぐる回すことによって人の能力を高めていこうとしています」。持丸さんは、人間拡張研究センターが行っている研究の内容をこのように説明し、この技術を産業化して、柏の葉でサービスに繋げて行くことを考えていると話しました。

継続は重要なキーワード

 司会の森さんがCROSS TALK 4に対する感想を尋ねると、持丸さんは組織やコミュニティが話題になり、家と職場、「勤」と「怠」、自分がどの組織やコミュニティに属しているかなど、いろいろなものの境目が曖昧になっているという話を聞いて、自分も共感できる大きなトレンドだと感じたと答えました。

 森さんから持丸さんの研究内容についての感想を求められた遠山さんは、「人間拡張は面白いし、アートにも何か使えそうな予感がした」と述べました。

 サリーさんは、実際にデバイスを街の人たちに貸与して、データを得ていること自体が既にサービスになっていると感じたと言います。そして、街に住んでいる人たちが知らずのうちにそういう研究や技術の発展に寄与しているのが、柏の葉の特徴だと指摘しました。

サリーさんは持丸さんの研究について、実際にデバイスを市民に貸し出してデータを得ている事自体が既にサービスになっていると話しました

 コミュニティと一緒に研究を進め、住民を巻き込んで新たなサービスやイノベーションを起こしていくには、継続が重要になるのではと森さんに尋ねられた持丸さんは、継続という言葉は二つの意味で人間拡張研究センターにとって重要なキーワードだと答えました。

 まず、研究において継続が重要な意味を持つ言葉であることを、持丸さんは人間拡張研究センターで行っている健康の研究を例に挙げて説明しました。自分が健康になったから継続しようと思う人は、だいたい3割ぐらいしかいないそうです。それ以外の人は仲間とやるのが楽しいから継続するとか、私が何かやるとコミュニティの点が上がるから継続するとか、いろんなタイプの人がいると言います。そこで持丸さんたちは、個々人の心理的な属性に寄り添って、何か情報なり、介入なりを提供し、継続性を高める研究を行なっているそうです。

 もう一つは、次々と新しいことを実験するのはいいが、それをサービスとして継続できなければ、実験に参加してくれた柏の葉の住民に対して失礼だからだと持丸さんは言います。持丸さんたちは、いろんな企業と組んで自分たちの研究結果を街の中に実装し、何とか継続していきたいと考えています。

コンパクトな中に多様性があり、それを許容することが大事

 柏の葉だからできた事、柏の葉の特徴が後押しをした事が何かあれば教えて欲しいという森さんの質問に、持丸さんはまず柏の葉の特徴はコンパクトな中にいろんな施設や機関が集まり、職住が接近している点だと指摘しました。

森さんは柏の葉だからできたことを教えて欲しいと持丸さんに尋ねました

 もう一つの特徴として持丸さんが挙げたのが、柏の葉のモデルが例えば球場や劇場があって、そこに人が集まれば鉄道会社も街も儲かる「集客型」ではないという点です。持丸さんは日本全体の人口が減っている中で、集客型のモデルをあちこちに展開するのは難しいと考えています。

 これに対して、よそから人が入ってこなくても街の中の人たちが互いに活性化してお金を使えばGDPは上がります。柏の葉はそういう方向性でまちづくりをしているように感じられ、研究にも適しているし、ここをモデル地区として日本各地に展開していけるという意味でも期待していると持丸さんは言います。

 遠山さんは持丸さんの話を聞いて、中で活性化するモデルは確かにありうると語ります。

「集客型じゃ無くて、そこで活性化していくと言うのも確かにそうですよね。地方再生とかいろいろありますけど、外からインバウンドだって何か持って来なくても、街の人たちが住みたくなるホテルとか、そんなものも面白いかもしれないですね」

持丸さんは多様な人がいる街こそ、人間拡張技術が育つと語ります

 持丸さんはさらに、コンパクトな街の中に多様性があり、それを許容し合うマインドセットがあることが大切だと付け加えました。今まで人間工学では多様性のギャップを埋めようとしてきたけれども、人間拡張は多様性を拡大する技術のような気がしていると持丸さんは語り、今よりもっと多様な人たちがいる時代を受け止められる街こそ、人間拡張のような技術が育っていくのではないかと指摘しました。

サイバーとフィジカルをうまく融合して、多様性に対応する

 サリーさんは、持丸さんの人間工学の話を興味深く聞いたと感想を述べました。そして、建築でも人間工学を勉強する事に触れ、例えば身長180センチと160センチの人がいたら平均をとって170センチの人に合わせて空間を設計するのではなく、一番背の低い人は誰かという弱者の立場に立つ「偏差」というものを考えると話しました。

 サリーさんは、そういう設計思想が多様な身体を許容する事だと思うと述べ、「身体性を拡張して、身体のバラツキが極端になった時に、最大公約数ではない、みんなの特徴を包含できる都市とはどんなものなのかという疑問が浮かんできた」と語りました。

 サリーさんのこの問いかけに対し、持丸さんは自分がその偏差を広げてしまう時に、ソリューションとしてサイバーとフィジカルを上手く行き来する事を考えていると言います。

「サイバーとフィジカル、デジタルとリアルの境界がだんだんなくなってきていると思います。都市をもっと柔軟にしていく事を考えた時に、サイバーとフィジカル、その二つが融合したところで何ができるのかを一生懸命研究しています」

個人の発想は企業より先に進んでいる

 森さんが、コロナによってデジタルトランスフォーメーションが進み、人々の感覚が変わってきたと思うが、それをどう捉えているかと尋ねたのをきっかけに、議論は変化にどう対応するかという話題に展開していきます。

 持丸さんは、変化をネガティブには捉えていないと答え、実は利用者、消費者よりも社会のシステム、組織の方が変化のスピードが遅いと指摘しました。

「生活者は、追いつくのにバラツキがあるにせよ、思ったより柔軟にテクノロジーに反応していただけるのではないでしょうか。むしろ社会システムや組織の方が簡単に変われない気がします」

 遠山さんも持丸さんの意見に賛同し、こう語りました。

「組織が本当に重いというのは、しょっちゅう感じています。個人の発想は企業より先に進んでいると思えば、企業より先に小さくてもいいから自分から仕掛け、どんどんやってみようという事にも繋がっていきます」

遠山さんは小さくてもいいから自分から仕掛けることが大切だと語ります

 持丸さんは遠山さんの話を受けてさらに、「自治体や、研究所や企業がなかなか変われない時に、小さく初めて二の矢、三の矢を出していくようなアクションができる街、コミュニティが良いのではないか」と話しました。

 森さんから持丸さんと遠山さんの話に対する感想を聞かれたサリーさんは、「持丸さんの話を聞いていて、人間拡張技術研究の本質は、物理的に身体能力を拡張するという事よりも、むしろ身体に対する概念を拡張する事にあるのではないかと思った」と語りました。

 だからこそ、市民と話し合い、一緒に作っていったり、小さくスタートしたりして、それがどういう変化を起こしていくのかを観察するのが重要になるとサリーさんは言います。そして、「実験はラボでやるし、開発もラボでやるけれども、最先端はラボの外、街にあって、そこから拾ってきて自分たちをインスパイアできる」と話しました。

最先端は街にある

 議論の最後に森さんは『READY FOR FUSION?』というテーマや議論についての感想を、登壇者の皆さんに聞きました。

 持丸さんは、テクノロジーとデザインの境目をなくそうと日々研究に取り組んでいることから、サリーさんが語った「最先端は街にある」という言葉が強く印象に残ったそうです。

「研究者は最先端はラボにあると思っていますが、そんなことはない。『最先端は街にこそある』という言葉は、今日私にすごく刺さりました。そういう形でこの街の中で一緒に研究していければと思い直しました」

 サリーさんは、すごく柏の葉らしいテーマだったと感じたと話してくれました。

「画面の向こう側で聞いている方々も、職住近接というか、住んでいる中に実験がある柏の葉らしいディスカッションだなと思いながら聞いていたんじゃないかと思います。遠山さんの話もすごく面白くて、家に帰って反芻してみたいなと思います」

 遠山さんは「身体拡張」という言葉が気になって、何か柏の葉を舞台にしたアートにできないかと考えたそうです。

「アートはフィクションとノンフィクションの間を行ったり来たりするようなところがあります。例えば柏の葉というリアルな場があり、そこで生まれた技術やサービスをそれこそ考えを拡張させ、フィクションを入れながら、実際に本当に柏の葉で行われているような映像作品を作りたいなと今思っています」

イベントは終了いたしました。
たくさんのご参加ありがとうございました。

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