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KASHIWANOHA INNOVATION FES 2021のフィナーレを飾るCLOSING TALKには、分野や地域を横断し、クリエイティブな活動を通じて障害者の社会参加をサポートしている栗栖 良依さん、データ分析を基にさまざまな未来への提言を行っている安宅 和人さん、公・民・学の街づくりを進める柏の葉で中心的な役割を果たしている出口 敦さんの三人が登場しました。数多くある課題を再確認し、多様な個性を生かしながら街づくりを進めれば社会全体がアップデートし、より良い未来に繋がる事を確認しました。
FUSION OF PEOPLE より良い未来を共創するために、都市にできること。
栗栖 良依 × 安宅 和人 × 出口 敦
多様な個性に優しい街づくりは、
社会のアップデートに繋がる
もう少し速度を落とせば、個性を生かせる社会にできる
「FUSION OF PEOPLE より良い未来を共創するために、都市にできること。」をテーマに、掲げ、KASHIWANOHA INNOVATION FES 2021の最後を飾ったCLOSING TALKには、障害者の社会参加に取り組む栗栖 良依さん、データ分析を基に新しい未来を創るための意識改革を訴える安宅 和人さん、柏の葉で「公・民・学」連携の街づくりを進めている出口 敦さんが登場。さまざまな課題や分断を乗り越え、一人ひとりが個性を発揮し、安全・快適に暮らせる社会や都市をどう実現していけば良いかを議論しました。
司会進行は医療ジャーナリスト/キャスターの森 まどかさんが務めました。
冒頭の自己紹介はまず、栗栖さんから始まりました。
栗栖さんはアートやデザイン、エンターテイメントといった世界を横断しながら、さまざまな異なる分野の人や企業、地域を繋げて新しい価値を創造するプロジェクトを行っています。
2010年に右膝関節に骨肉腫を発症したことが、大きな転機となったと栗栖さんは振り返ります。この病気によって障害者となったことがきっかけで、2011年にアーティストを障害者施設に派遣して、それぞれの特徴を生かしてもの作りをする「スローレーベル」という活動のディレクターに就任しました。
スローレーベルの「スロー」はとても重要なキーワードだと栗栖さんは強調します。
一つ目の理由は障害者施設での物づくりが非常にゆっくりだという事です。「ゆっくりだからダメなのかというとそうではなく、工業製品には出せない、一つひとつ色や形を変えた個性豊かなものを作り出せるという強み」だと言います。
二つ目の理由は、効率重視で時間に追われる暮らしの中で、もう少し速度を落とせば一人ひとりの顔が見え、個性を生かせる社会にできるのではないかという事です。
スローレーベルの代表的なプロジェクトに、横浜市の文化観光局と健康福祉局と一緒に立ち上げた「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」というフェスティバルがあります。
「フェスティバルを作り上げる過程の中で、社会の中にあるさまざまなバリア、障害を持つ人たちにとってのバリアを発掘し、それをクリエイティブに解決して社会に還元していく」プロジェクトで、栗栖さんたちは「発展進行型プロジェクト」と呼んでいます。
このプロジェクト中で生み出されたノウハウは、横浜の中だけではなく全国的にも活用できるもので、リオパラリンピックの閉会式や東京パラリンピックの開閉会式に生かされました。
最近スローレーベルが力を入れている活動が、2019年に立ち上げた日本初のソーシャルサーカスカンパニー、「SLOW CIRCUS PROJECT」です。
ソーシャルサーカスは、サーカスをするためのいろんなエクササイズの中で自尊心や自己肯定感、協調性や創造性、社会性を育むプログラムを提供し、マイノリティを社会に送り出す活動です。最初は障害のある人たちと始め、今ではいろいろな対象者に活動を広げています。
DATA
登壇者名 栗栖 良依 プロフィール 認定NPO法人スローレーベル理事長
東京造形大学にてアートマネジメントを学ぶ傍ら、スポーツの国際大会や舞台制作の現場で実務を学び、長野五輪では選手村の式典・文化プログラムの運営に従事する。
2005-06年、イタリアのDomus Academyに留学し、ビジネスデザイン修士号取得。イタリアを拠点に世界30カ国でクリエイティブマーケティングのコンサルティングを実践するFuture Concept Labのトレンドリサーチャーとして世界各地を旅しながら、異文化・異分野の人や地域を繋ぎ、新しい価値を創造する活動を多方面で展開。
2008年より、国内の過疎化の進む地域で市民参加型エンターテイメント作品をプロデュース。2010年、骨肉腫を患い右下肢機能が全廃し、障害福祉の世界と出会う。2011年、アーティストと福祉施設や企業を繋ぎ、新しいモノづくりとコトづくりに取り組む「スローレーベル(SLOW LABEL)」を設立。2014年、障害者と多様な分野のクリエイターを繋ぎ新しい芸術表現を生み出す国際芸術展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を立ち上げ、総合ディレクターを務める。障害のある人が芸術活動に参加するための環境整備や支援人材の育成に取り組む。日本財団DIVERSITY IN THE ARTS舞台芸術部門プログラムアドバイザー。第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」、タイムアウト東京LOVE TOKYO AWARD2016「Face of Tokyo」受賞。東京2020総合チーム クリエイティブディレクター。登壇者名 安宅 和人 プロフィール 慶應義塾大学 環境情報学部教授 / ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)
データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学。
2001年春、学位取得(Ph.D.)。ポスドクを経て2001年末マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域中心メンバーの一人として幅広い商品・事業開発、ブランド再生に関わる。
2008年よりヤフー。2012年7月よりCSO(現兼務)。全社横断的な戦略課題の解決、事業開発に加え、途中データ及び研究開発部門も統括。2016年春より慶應義塾大学SFCにてデータドリブン時代の基礎教養について教える。
2018年9月より現職。内閣府 総合科学技術イノベーション会議(CSTI)基本計画専門調査会 委員、官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM)AI技術領域 運営委員、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長なども務める。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版、2010) 『シン・ニホン』 (NewsPicksパブリッシング2020)登壇者名 出口 敦 プロフィール 東京大学大学院新領域創成科学研究科 研究科長・教授 / 柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長
1990年東京大学大学院博士課程修了(工学博士)。東京大学助手、九州大学助教授、教授などを経て2011年より現職。
専門分野は都市計画学、都市デザイン学。都市のデザイン・マネジメント、スマートシティについての研究を進めている。
千葉県柏市柏の葉にある柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長、スマートシティコンソーシアムのコーディネーターなどを務め、全国のアーバンデザインセンターの普及やネットワーク化を進める一般社団法人UDCイニシアチブの代表理事を務める。