MAGAZINE
KASHIWANOHA DISCUSSION 5
FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。
CROSS TALK 5の議論を受けて展開したKASHIWANOHA DISCUSSION 5には長寿社会における健康増進の問題に取り組んでいる筑波大学 人間総合科学学術院 久野 譜也 教授が加わって、議論を展開しました。久野さんが提起した、極端な外出自粛により生じた高齢者の健康二次被害の問題をはじめ、コロナによって引き起こされたさまざまな課題に対する解決策を議論する場となりました。
FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。
渋谷 健司氏 × ドミニク チェン氏 × 久野 譜也氏
幅広い世代のヘルスリテラシーを向上し、
健康二次被害を防ぐ。
極端な外出自粛により健康二次被害が発生
「FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。」をテーマに議論を進めたKASHIWANOHA DISCUSSION 5では、渋谷 健司さん、ドミニク チェンさんの他に、健康増進分野日本初の大学発ベンチャー株式会社つくばウエルネスリサーチの本社を柏の葉に置き、全国を対象に活動している筑波大学 人間総合科学学術院 教授の久野 譜也さんが議論に加わりました。
司会進行は、医療ジャーナリスト/キャスターの森 まどかさんが務めました
久野さんは簡単に自己紹介をした後、コロナによる外出規制に伴う運動不足と健康二次被害の関係について、具体的なデータを示しながら説明しました。
久野さんは2020年2月の段階で、外出規制に伴う健康二次被害が発生することを予測していたそうです。外出自粛後2ヶ月の2020年5月に新潟県見附市で訪問調査を行ったところ、対象となった60歳〜91歳の585人のうち、12.6%の方に既に認知機能の低下が見られたと言います。
外出自粛後約8ヶ月の2020年11月に地域を5自治体に広げ、60歳以上〜90歳代の4700人を対象に行った調査では、認知機能が低下した人は27%に増えていました。さらに、外出自粛後13ヶ月を経た2021年4月に一般社団法人 全国介護事業者連盟が60歳〜91歳の651人を対象に行った調査では、32.7%の人に認知機能低下が見られました。
この大きな原因は、活動量が不足することもあるが、高齢者世帯は独居や夫婦世帯が多く、会話が減ることだと久野さんは説明します。
久野さんは、これまで行われてきた感染対策を決して否定するわけではないけれども、極端な外出自粛に陥った人が非常に多く、健康二次被害が増えてしまったと捉えています。
そして、コロナによって、人間関係・コミュニティの崩壊が起こった、健康格差が拡大した、医療体制の課題が露呈した、マスコミ報道の確からしさへの疑問が生じた、日本人のヘルスリテラシー(健康情報を探し、理解し、適切な健康行動に繋げる力)の低さが露呈した、と指摘します。
久野さんは、外出規制による感染予防とそれに伴う健康二次被害のバランスを取りながら対策を行っていくためにも、コロナの状況が少し落ち着いてきた今、これらの課題を検証し評価するべきだと考えています。
分断防止には声を上げている人たちへの心理的ケアが必要
「さまざまな場を失った高齢者を中心に、いろんな課題が見えてきたことを紹介いただいたので、それをどう解決に繋げていくか議論したい」という森さんの言葉を受け、ドミニクさんはまず久野さんが外出自粛に伴う健康二次被害について、迅速に動いてまとめたことに対して大変驚き、敬服すると語りました。
そして、健康二次被害は高齢者だけの問題ではなく、「全世代に共通する課題であり、それは日本だけではなく、グローバルウェルビーイングにとっても非常に大事な観点ではないか」という認識を示しました。
渋谷さんは、久野さんはきちんとデータをとって、それを提示して説得力のある議論を展開しているところが素晴らしいと語りました。そして、コロナ対策は久野さんが話したように、「感染対策 対 社会経済という二項対立ではなく、経済社会を回すために感染制御をしようというのが僕自身の議論でもあったのに、なぜか人流抑制や接触を避けるということばかりになってしまい、健康二次被害が大きくなったというのは忸怩たる思いがある」と述べました。
森さんは「コロナによって社会の分断が進み、特に高齢者が取り残されて世代の分断が進んだり、地域の分断もあったりしたのではないか」という認識を示し、ドミニクさんにこの問題をどう捉えているか質問しました。
ドミニクさんは、「今の社会の中にお互いを攻撃し、分断する構造があることは、非常に根深い問題だ」と指摘しました。
そして、「社会的に困窮している人たち、心理的にとても不安になっている人たちが、自分でコントロールできない、若しくは自覚できないような攻撃的な言葉を、ネットでぶつけている。そういう声を上げている人たちを断罪するのは簡単だけれども、そういった人たちの心理的・精神的ケアも考えないといけない」と語りました。
DATA
登壇者名 渋谷 健司 プロフィール 福島県相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長 元WHO事務局長上級顧問
医学博士(公衆衛生学)。世界保健機関(WHO)シニア・サイエンティスト(保健政策のエビデンスのための世界プログラム)や、東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授を歴任。
現在は、相馬市 新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター・センター長。
死亡・死因分析、疾病の負担分析、リスクファクター分析、費用効果分析、保健システムパフォーマンス分析などを専門分野とする。登壇者名 ドミニク チェン プロフィール 早稲田大学 文化構想学部 准教授
博士(学際情報学)。テクノロジーと人間の関係性を研究。
インターネット時代のための新しい著作権ルールを提供する、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現コモンスフィア)の理事や、「人間の自然に近いコミュニケーション」をテーマに、ソフトウェア開発やサービス展開を行う株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、早稲田大学文化構想学部准教授に就任。日本語、フランス語、英語が話せる。登壇者名 久野 譜也 プロフィール 筑波大学 人間総合科学学術院 教授
高齢化社会に対する日本の健康政策の構築を目指すため、2002年に健康増進分野日本初の大学発ベンチャー株式会社つくばウエルネスリサーチを設立。
さらに2009年から成長型長寿社会の確立を目指し、全国の9市長とSmart Wellness City首長研究会を立ち上げ、現在43都道府県113区市町村まで活動を拡大。
またコロナ禍の健康二次被害対策として、YouTube動画を活用し、テレワーク中に自宅でも出来る筋トレ、感染予防をしながら安全にランニングを行う方法、リモート時代の食卓について等の情報を配信している。