MAGAZINE
KASHIWANOHA DISCUSSION 5
FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。
健康格差に情報が与える影響は大きい
森さんは「高齢者のコミュニケーション機会を減らさず、身体機能を低下させないためには何が必要か」と久野さんに尋ねました。
久野さんは千葉大学 予防医学センター 教授の近藤克則さんたちの研究により、高齢者でもICTを使って他の人々と繋がっていれば認知機能を維持できることが明らかになったと語り、「80代、90代でも使えるデバイスの開発を急ぐ必要がある」と提言しました。
その一方で、久野さんはICTに頼り過ぎてもだめで、やはり人と人が触れ合うことによって認知症が多少改善することがあるので、どうやってリアルな空間で人と会う機会を作っていくかということも課題だと指摘しました。
続けて森さんが認知機能の低下や身体機能の低下を解決するヒントはあるかと渋谷さんに聞きました。
渋谷さんもやはり人と触れ合う時間や機会を作ることが大事だと指摘しました。そして、「ヘルスリテラシーを高めて自分で自分の身を守らなければいけない時代になった」と述べました。
久野さんは渋谷さんのヘルスリテラシーの話を受けて、SNS での情報発信の怖さや、マスコミの報道の在り方について言及しました。
「SNSの怖さは何のフィルターもなく、どんどん情報が出されてしまっていて、それがどれくらい影響を与えるか考えていないところ。テレビのワイドショーも医療関係者やコメンテーターの一言がどういう影響を与えるかをもう少し考える必要がある。その結果このような健康二次被害が起こっているとすれば、マスコミ報道や政府の情報の出し方について何が課題だったのかを検証し、それをフィードバックして、次回はそういう負の側面をどう弱めていくかがすごく大事だと思います」
森さんは久野さんに「健康格差に報道や情報が与える影響は大きいと考えているか」と質問しました。
久野さんは、かなりの数の高齢者にヒアリングした結果、外出できないため朝からずっとテレビを見ている人が多かったと証言しました。その結果、「1ヶ月も2ヶ月も危ないぞ、危ないぞ」と言われ続けたのが、高齢者が外出を自粛する大きな要因となったのではないかと分析しました。
久野さんはさらに、高齢者が外出を控えた原因の一つに子供世代からの働きかけもあったと指摘し、幅広い世代のヘルスリテラシーを高めることも課題だと語りました。
「子供世代が親にとにかく危ないから外に出るなと止めた事も今回わかっていて、そうすると高齢の皆さんだけのリテラシーを上げるのではなく、幅広い世代のリテラシーを上げていく事、あるいはそこにきちっとした情報を届ける事が、非常に大事だなと感じました」
DATA
登壇者名 渋谷 健司 プロフィール 福島県相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長 元WHO事務局長上級顧問
医学博士(公衆衛生学)。世界保健機関(WHO)シニア・サイエンティスト(保健政策のエビデンスのための世界プログラム)や、東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授を歴任。
現在は、相馬市 新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター・センター長。
死亡・死因分析、疾病の負担分析、リスクファクター分析、費用効果分析、保健システムパフォーマンス分析などを専門分野とする。登壇者名 ドミニク チェン プロフィール 早稲田大学 文化構想学部 准教授
博士(学際情報学)。テクノロジーと人間の関係性を研究。
インターネット時代のための新しい著作権ルールを提供する、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現コモンスフィア)の理事や、「人間の自然に近いコミュニケーション」をテーマに、ソフトウェア開発やサービス展開を行う株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、早稲田大学文化構想学部准教授に就任。日本語、フランス語、英語が話せる。登壇者名 久野 譜也 プロフィール 筑波大学 人間総合科学学術院 教授
高齢化社会に対する日本の健康政策の構築を目指すため、2002年に健康増進分野日本初の大学発ベンチャー株式会社つくばウエルネスリサーチを設立。
さらに2009年から成長型長寿社会の確立を目指し、全国の9市長とSmart Wellness City首長研究会を立ち上げ、現在43都道府県113区市町村まで活動を拡大。
またコロナ禍の健康二次被害対策として、YouTube動画を活用し、テレワーク中に自宅でも出来る筋トレ、感染予防をしながら安全にランニングを行う方法、リモート時代の食卓について等の情報を配信している。