KASHIWANOHA DISCUSSION 3
FUSION of ecosystem 環境問題を解決する、実感のデザイン。

「FUSION of ecosystem 環境問題を解決する、実感のデザイン。」をテーマに議論を進めたKASHIWANOHA DISCUSSION 3。CROSS TALK 3にご登壇した松島 倫明さんとマクティア・マリコさんに加え、画期的な走行中ワイヤレス給電技術の開発に取り組み、柏の葉スマートシティで実証実験を行っている東京大学 大学院新領域創成科学研究科  先端エネルギー工学専攻 教授 東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授の藤本 博志さんが議論に加わりました。カーボンニュートラル実現に向けて、関係者の思いを融合しプロジェクトを進めることの大切さ、それを受け止めて後押しをするコミュニティの大切さが浮き彫りになりました。

FUSION of ecosystem 環境問題を解決する、実感のデザイン。
松島 倫明氏 × マクティア・マリコ氏 × 藤本 博志氏

走行中給電技術の可能性を柏の葉で見せ、
カーボンニュートラル社会を先導する

松島 倫明(『WIRED』日本版 編集長)
マクティア・マリコ(一般社団法人 Social Innovation Japan 代表理事・共同創設者 mymizu 共同創設者)
藤本 博志(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 教授 東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授)

電気自動車の航続距離が無限大になる

CROSS TALK 3 の内容を受けて「FUSION of ecosystem 環境問題を解決する、実感のデザイン。」をテーマに議論を展開したKASHIWANOHA DISCUSSION 3には、カーボンニュートラル社会実現のため柏の葉スマートシティで電気自動車(EV)へのワイヤレス走行中給電の研究に取り組んでいる、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 教授 東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授の藤本 博志さんが参加しました。

司会進行は、医療ジャーナリスト/キャスターの森 まどかさんが務めました。

 DISCUSSIONはまず、藤本さんの研究内容の紹介から始まりました。

 EV普及の課題になっているのは、1回フル充電しても約300キロメートル程度に留まる航続距離の短さです。加えて、集合住宅に住んでいる住民は充電設備がほとんどないため、EVを買いたくても買えないという事情があります。

 この問題を解決するためにバッテリーを倍積んでも、その分重量が増えるため航続距離が倍に増えることはありません。また、EV価格のうち大きな割合を占めるバッテリーを倍積めば、それだけ車両の値段が跳ね上がってしまいます。

藤本さんが取り組んでいる電気自動車への走行中給電システム研究は、電気自動車の駆動輪内部に装備された電気モーターに、走行中にワイヤレスで直接電気を供給しようというアイデアを実現させるものです。この技術によりカーボンニュートラルな社会の実現を目指しています

 藤本さんはさらに、「バッテリー生産のための資源リスクが顕在化していて、バッテリー容量だけに頼らない方法が必要とされている」と付け加えます。これらの問題を解決するために世界中で研究が進んでいるのが、走行中給電です。

 藤本さんたちがある郊外の街を実際に走ってクルマの公道走行データを分析したところ、1時間走るうち15分は交差点の手前30メートル以内の場所に停車していることがわかりました。そこに給電設備を埋設すれば、走った分のエネルギーを取り戻すことができると言います。国の走行中給電システム研究開発プロジェクトでは、2025年をめどにまず柏の葉スマートシティの実証実験でこれを成功させる予定です。

 その次のステップでは、高速道路にワイヤレス給電システムを設置し、2040年ごろの実用化を目指したいと藤本さんは考えています。

「どんなコンセプトかというと、1kmこの設備があると9kmはないと思ってください。9kmで失った分のエネルギーを1kmで充電するので、バッテリー残量はギザギザしますがずっとそこで走ることができるわけです。つまりEVの航続距離が無限大になるのがこの技術です」

 これが可能になると、クルマから排出されるCO2を劇的に減らせるだけでなく、電源構成を変えることができれば、ガソリン自動車の社会を続けるのに比べてCO2の排出量を95%減らせると、藤本さんは期待しています。

 2020年の日本の全発電電力量に占める火力発電の割合は74.9%に達しています。電源構成を太陽光や風力などの再生可能エネルギー中心に転換できればCO2は大幅に減らせますが、再生可能エネルギーには発電量が大きく変動し、不安定であるというデメリットがあります。電気は電気エネルギーのまま貯めておけないため、電力会社は常に変化する需要に合わせて発電しています。発電量が不安定であることは、大きな課題です。

 藤本さんは、走行中給電を実用化すれば、この課題を解決する役に立つと言います。

「九州地区では90日間も(太陽光発電の)出力が抑制されています。太陽光がいっぱいある時に発電できるにも関わらず、その瞬間に使ってくれるお客さんがいないから、発電をやめてくださいということになっています。一方で、その間車はCO2を出しまくりながら走っている。こういう矛盾が起きています。走行中給電があれば、その電力をうまく活用できます」

2025年までに、まず柏の葉スマートシティのマンションに住んでいる人がEVを買い、家で充電はできなくてもEVのある生活を享受できる環境を実現する事を、藤本さんは目指しています。柏の葉スマートシティの実証実験では、その目標に向けて確かな手応えを得ています。

「我々が柏の葉地区でやっている実証試験の素晴らしい点は、効率がとっても良い事です。効率が95%出ていて、コイルからコイルの間の効率から、また地面側の変換効率まで全部含めてこれができた。この辺がポイントになっていて、この技術があれば完全なEV化に向けて突き進むことができるだろう、そういうスマートシティも作れるだろう、こういうふうに思っています」

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