MAGAZINE
KASHIWANOHA DISCUSSION 3
FUSION of ecosystem 環境問題を解決する、実感のデザイン。
まず柏の葉スマートシティで実現可能であることを見せる
森さんからCROSS TALK 3 についての感想を聞かれた藤本さんは、いろんな共通点があると感じたと答えました。
マクティアさんの話については、ペットボトルが大量に廃棄されるのと、ガソリン自動車でCO2を大量に出し続けるのとほぼ等価だと思ったと、藤本さんは言います。
そして、マクティアさんのmymizuはペットボトルを大量に廃棄するのではなく、「ちょこちょこ給水」をしていくシステムだと表現し、目指しているところはまさにそこで、藤本さんたちの走行中給電は、みんなが小さなバッテリーを積んでちょこちょこあちこちで充電していれば成立する、「ちょこちょこ充電システム」だと語りました。
松島さんの話の中では「SFをヒントにして」というところに共感したと藤本さんは答えました。
「我々科学者も、もちろん昔は子供だったわけで、SFなんかに刺激を受けてこういうことを夢見て、実際にできるものだったらそれに食らいついていくということをやっています。そういうのもいろいろ思い出しながらお話を拝聴しました」
続いて森さんが例えばこの柏の葉スマートシティ全体に走行中給電システムを実装するためには、どのくらいの期間が必要になるのか尋ねたところ、藤本さんは電車を例に挙げて、「少しずつ進めれば良い」と説明してくれました。
私たちは今普通に「電車」という呼び方をしますが、日本の鉄道のうち電化されているのは、6割とか7割ぐらいで、それ以外はディーゼルです。鉄道が始まったときには蒸気機関で、内燃機関になり、有線の走行中給電である電車が普及しました。それと一緒で、道路への給電システムの埋設が一気に進まなくてもよくて、ある比率になると充電ステーションに行く頻度がどんどん下がっていく、と藤本さんは予測しています。
そうすると、毎日充電できる人しかEVを買えなかったのが、だんだんEVを買う人の輪が広がり、どこかで一切急速充電ステーションに行かなくてもいいような社会が目指せるかもしれない。まずは柏の葉で実例を見せることが重要だと、藤本さんは言います。
「大事なのは、最初にこれができるということを示すことです。それを柏の葉スマートシティでまず見せて、そうすると賛同する人が増えて、仲間が増えてというストーリーです」
見える化で意識や行動様式が変わる
森さんは次に「環境ということを実感するためには何が必要だと考えているか」を藤本さんに聞きました。
藤本さんは「見える化」することで、環境に対する意識や行動様式が変わるのではないかと答えました。
「一般の方がいつもCO2排出を気にして生きることは難しいと思います。先ほどマクティアさんのお話にあった、見える化というのはとても大事だと思っています」
その例として、藤本さんは、エレクトリシティマップというサイトを紹介してくれました。エレクトリシティマップでは、今この瞬間に各国がどういう電源構成になっているかがわかるようになっています。
こうやって見える化することで、「今太陽光でいっぱい発電されているので集中的に充電していこう」という生活様式に変わるし、いろんな意識が変わっていくだろうと藤本さんは指摘します。
さらに見える化だけじゃなくて、場合によってはダイナミック・プライシングのような仕組みを導入することによっても、行動様式は変えられるのではないかと話します。
「充電の値段が太陽光いっぱいの時にはものすごく安くなって、CO2をいっぱい出しまくっている電源構成の日はちょっとお高いですよというのでも、行動様式は変えられると思います。そういうやり方もあると思いながら、お話を聞いていました」
松島さんは藤本さんの話を聞いて、自分が五感で感じていることと、数値として出ているものをすり合わせることが結構重要だと思っていて、EVがそのデバイスの1つになる未来を感じたと言います。
「バイオデータって今取れるじゃないですか。でもその数値だけを信じるんじゃなくて、例えば『昨晩よく寝られたね』と数値で出ているんだけど自分は不満だとか、そのズレみたいなのと常に対話することで、自分の体の解像度がすごく上がります。それと同じことが多分自然についても言えるし、そのまさにデバイスの一つとしてEVがなっていくのかなという未来を感じました」
DATA
登壇者名 松島 倫明 プロフィール 『WIRED』日本版 編集長
テックカルチャー・メディア『WIRED』日本版 編集長として「ニューエコノミー」「デジタル・ウェルビーイング」「ミラーワールド」などを特集。東京都出身、鎌倉在住。1996年にNHK出版に入社、翻訳書の版権取得・編集・プロモーションなどを幅広く行う。
2014年よりNHK出版放送・学芸図書編集部編集長。手がけたタイトルに、デジタル社会のパラダイムシフトを捉えたベストセラー『FREE』『SHARE』『MAKERS』や『限界費用ゼロ社会』など多数。一方、世界的ベストセラー『BORN TO RUN 走るために生まれた』の邦訳版を手がけて自身もランナーとなり、今は鎌倉に移住し裏山のトレイルを走っている。
『脳を鍛えるには運動しかない!』『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』『マインドフル・ワーク』『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』など身体性に根ざした一連のタイトルで、新しいライフスタイルを提示してきた。2018年6月より現職。登壇者名 マクティア・マリコ プロフィール 一般社団法人 Social Innovation Japan 代表理事・共同創設者 mymizu 共同創設者
マイボトルを持参すれば無料で給水できるスポットを簡単に検索できるアプリ『mymizu』をはじめとするサステナブルな取り組みが評価され、昨年11月にグッドライフアワードの環境大臣賞を受賞。
個人だけでなく国に対しても環境意識改革を呼びかけ、環境保護のムーブメントを牽引する。登壇者名 藤本 博志 プロフィール 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 教授 東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
2001年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、長岡技術科学大学助手、米国Purdue大学客員研究員などを経て 2010年より現職。
電気自動車をはじめ、ロボットや宇宙機・電気飛行機、工作機械、電動車椅子などの運動制御の研究を行い、2017年、道路からインホイールモーターへのワイヤレス走行中給電に成功。現在、国の走行中給電システム研究開発プロジェクトを率いている。