MAGAZINE
OPENING TALK
FUSION of life
生き方のイノベーションと、都市のカタチ。
人生100年時代はマルチ・ステージ・ライフになる
グラットンさんは続いて次に家族の形について言及しました。
「1950年代には父は仕事をし、母は家族の面倒をみていました。1970年代になると女性たちも仕事を始めました。これは、日本でも他の国でも同じだと思います。しかし、子供ができると多くが仕事を辞めていました。現在では日本でも多くの家族で父も母も両方働いているという状況です。このことにより、コミュニティのダイナミクスが大きく変わりました」
このコミュニティのダイナミクスの変化により、柔軟性のある働き方の重要度が増したとグラットンさんは指摘します。グラットンさんはさらに「どのように生きたいか」について、2つの提案をしてくれました。
「長く生きるにつれて、生き方を変えられる可能性が大きくなります。私たちは皆『なり得る自分像』を持っています。私たちは、スキル、コネクション、友人、アイデアなど、それぞれのライフステージにおける自分自身の『プラットフォーム』を持っています。このプラットフォームから飛び降りて、いろんなことができます。いくつになっても新たな生き方を模索できるのです」
長く生きるにしたがって、生き方の3つのステージ(フルタイムの教育→フルタイムの仕事→フルタイムの引退)という生き方ができなくなります。100歳まで生きるとすると、80歳まで仕事を続けるかもしれないとグラットンさんは言います。そうであれば、もっと多様な選択肢、すなわちマルチ・ステージを自分の人生に組み込んで新しい生き方模索する必要があり、この新しい生き方において都市が重要な役割を果たすとグラットンさんは説きます。
コロナでマルチ・ステージ・ライフの可能性が増した
コロナによってマルチ・ステージ・ライフ実現の可能性がより高まったとグラットンさんは考えています。コロナ禍によって、これまでとは違う生き方があるということを学んだからです。コロナ後をにらみ、多くの国々で新しい働き方の模索が続いています。家で働くのか、オフィスで働くのであればどういう働き方をするのか。イギリスでは、週に2、3日オフィスに行って、あとは家で働く、そういった考え方が出てきているそうです。さらに、労働時間についても見直しが進んでいると言います。
「世界中の企業が生産性を上げるために長時間働く必要があるのかと自問しています。答えは、NOです。より長く働くのではなく、より賢く働かなければならないのです」
グラットンさんは発表の最後にコミュニティにとっての都市の役割の大きさに言及し、働き方を変え、生き方を変えれば、私たちの未来には大きな可能性があると指摘しました。
グラットンさんの発表を受け、モデレーターの森さんが、コロナ禍で進んだ個人と企業、個人と組織の分断について、主体性を持って個人と組織が関係を築いて融合していくためには、どのようなことが大切かを質問しました。
この質問に対しグラットンさんは、組織と自分をどう関係づけるのかが大事だと指摘します。
「個人が企業と融合する、つながっていると感じるのは、自社の製品やサービスが自分の価値観と一致していると考えているからです。ですから、この価値観がとても重要です。そして企業が自分自身を成長させてくれると思えることも重要です」
自動化の時代、より長い人生を生きる時代には、みんなが人生を通して学び続ける必要があります。その学びをサポートできる企業は個人と融合できる、とグラットンさんは言います。
「20歳で教育を終えてしまうのではなく、人生を通して学び続ける必要があります。人々の成長を助けることができる企業、学ぶことを助けることができる企業、その結果より高い地位が得られ、それまでできなかったような仕事ができる企業、それが人々がつながりを感じ、働いてみたくなる企業です。生涯学びたい人をサポートする、これが個人と企業を融合させる核心です」
続いて森さんが柏の葉スマートシティで多様な働き方に応えながら新産業創造を目指す企業のインキュベーションを目的とした柏の葉オープンイノベーションラボ(KOIL)を紹介し、KOILについてどういう印象を持ったかをグラットンさんに聞きました。
グラットンさんは、日本は起業家精神という面で見ると他の国と比べて遅れていると言います。そして、起業家のクラスターに必要なものとして、起業家になりたい人材、大学をはじめとする支援施設が周辺に揃っていること、財政的なサポートの3つの要素を挙げ、スマートシティはこの3つの要素をすべて集めることができる場所だと指摘しました。
「例えば、シンガポールのスマートシティでは起業家を支援して一緒に集まって、シェアードスペースで仕事をする場所があります。これがイノベーションの基礎になるわけです。スマートシティで起業家がビジネスを始める時に、KOILのような施設は非常に重要な役割を担うと思います」
DATA
登壇者名 リンダ・グラットン プロフィール イギリスの組織論学者、 コンサルタント、ロンドン・ビジネススクールの管理経営学教授及び彼女自身の組織行動論(英語版)上の実績で有名なHot Spots Movementの創業者である。
日本政府が、人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策等を検討するべく設置した「人生100年時代構想会議」に招かれ、国内でも知られるようになった。