MAGAZINE
OPENING TALK
FUSION of life
生き方のイノベーションと、都市のカタチ。
ワーク・ライフ・バランスが再評価されている
続いて森さんは柏の葉スマートシティが、デジタル先進国電子政府であるエストニアをモデルとし、個人データ主権の中でデータ利活用のまちづくりに着手し、個人がデータを有効に利活用し、ニーズに応じて人々の暮らしがより豊かになるまちづくりを目指していることなどを紹介し、その印象をグラットンさんに聞きました。
グラットンさんは個人主権のデータ利活用について、スマートシティのまちづくりにはとても良いアイデアだと答えてくれました。
「先週シドニーを訪れましたが、全ての交通機関が連携しているため、シームレス且つ安全に交通機関を利用できます。『連携する』という考え方と合わせてデータを活用することで人々のニーズが可視化されています。たくさんデータがあればあるほど人々の好みがわかります。これは非常に素晴らしいアイデアだと思います」
オープニングトークの最後は、事前に受けた質問にグラットンさんが答えるコーナーです。
「日本では仕事を生活の手段ではなく目的と考える傾向がありますが、イギリスや欧米の労働者はどのように考えているのでしょうか」という質問に、グラットンさんは欧米では仕事と人生のバランスが、今、再評価されていると答えてくれました。
「北米やヨーロッパの人々にとっても仕事というのは人生において重要な一部です。しかし若い世代はもっとコミュニティを求める傾向が強いと言えます。地域の一部でありたいという考え方です。特に若い男性はもっと子供の面倒を見たい、もっと家族と一緒に時間を過ごしたいと考えています。仕事と人生のバランスが今、再評価されています」
グラットンさんは企業は有能な人材を採用するために、より柔軟な働き方を採用するところが増えているけれども、もっと選択肢を増やす必要があると考えています。
「私たちは世界中の企業が採用し始めている選択肢について調査しています。その中にはとても独創的で大胆なものがありました。私たちが顧問をしているある投資会社では、年に3ヶ月はどこでも好きなところで仕事をしていい、という選択肢が与えられています。別の会社では、契約に則り働きたい分だけ働き、余分に働いた分はそれに応じて報酬がもらえるという働き方があります。たくさんの大胆で、勇気ある実験が行われています。新しい働き方は実験を通してのみ学ぶことができるのです。試してみて、それがうまくいくかどうか考え、人々がそれを望んだかどうか考え、そこから学ぶ。コロナパンデミックの後には、このような実験のプロセスがとても大事です」
最後にグラットンさんは次のような言葉でオープニングトークを締めくくってくれました。
「この対談に参加できて、とても嬉しく思います。今後も私たちの多くが都市に暮らしていくことになります。ですから都市について見直すことはとても重要です。その見直しがより大胆で、よりクリエイティブであるほど、都市はその都市に暮らす人にとって素晴らしいものとなります。また来年日本に行きますので、実際に柏の葉を訪れるのを楽しみにしています」
DATA
登壇者名 リンダ・グラットン プロフィール イギリスの組織論学者、 コンサルタント、ロンドン・ビジネススクールの管理経営学教授及び彼女自身の組織行動論(英語版)上の実績で有名なHot Spots Movementの創業者である。
日本政府が、人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策等を検討するべく設置した「人生100年時代構想会議」に招かれ、国内でも知られるようになった。