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パンデミックや自然災害への対応が必要
続いて森さんは安宅さんにこれからの都市づくりにどういう視点や考え方が必要かを尋ねました。

これに対し、安宅さんは問題が二つあると指摘します。
安宅さんが指摘した問題の一つ目は、都市は圧倒的に密に作られているためパンデミックに弱いという点です。
二つ目は自然災害です。地球温暖化に伴う台風や豪雨はさらに増えると安宅さんは語り、このような自然災害に対して都市は根本的に弱いにも関わらず、人類の富と知恵と人口の多くが都市に集中していると指摘します。そして、パンデミックや自然災害が今後激増する事を予測し、私たちがそれにどう対応するのかが問われていると語りました。
二人の話に対する感想を求められた栗栖さんは、出口さんのインクルーシブの話を聞いて、「インクルーシブというとハードの話になりがちだけれども、それ以上にどういうマインドの人が暮らしているかの方が重要な気がする」と答えました。
いろんな人が入り交じり、ぶつかる空間をいっぱい作って欲しい
栗栖さんの話を聞いた出口さんは再びスライドを使って柏の葉の街づくりについて説明しました。
出口さんはまず、柏の葉ではデータを一括管理するのではなく、「サービスに求められるデータを蓄積し、利用者にどんどん還元する取り組みを重ねることでデータを蓄積し、スマートシティを作ろうという事をしている」と話しました。
次に出口さんが触れたのが、ワークショップを重ねて地域住民の課題を明確にし、構造化する仕組みとしてのリビングラボ「みんなのまちづくりスタジオ」です。

このような新しいタイプのデータ管理の仕組みと、住民参加の仕組みを作る事で、インクルーシブ社会の一つのモデルになる事が、自分たちのチャレンジだと出口さんは語りました。
議論の最後に森さんはKASHIWANOHA INNOVATION FES 2021のテーマである、『READY FOR FUSION ? 』について、三人の感想を聞きました。
安宅さんはホワイトボードを使いながら、『READY FOR FUSION?』は、いろんな生き物のための隙間を作る事であり、「いろんな人が入り交じり、ぶつかる空間をいっぱい作って欲しい」と語りました。

栗栖さんは「多様性と調和みたいなところも、街づくりの観点で必要になってくると思っていて、それにはやっぱりイマジネーションの想像力とクリエイティビティの創造力という二つの『ソウゾウリョク』が欠かせない住民スキルだと思う」と答えました。
そして、そういう「ソウゾウリョク」を育める、学校教育の中だけではなくて街の中にそれが育める仕組みがたくさんあふれてくると、本当のFUSIONが生まれるのではないかと指摘しました。
出口さんは「本当に効率がいいだけの都市を作るのではなく、どこかに隙間の空間を作ってクリエイティブな余地を残してやらないと、本当に面白い場所になっていかないと思う」と議論をふりかえりました。
そして、夢と夢が組み合わさっていくことがいまの日本には一番欠けていて、都市づくりにおいても欠けているところなので、夢と夢を組み合わせてFUSIONさせ、実現させていくための都市はどうあるべきかを柏の葉の街づくりに取り組んでいる人たちと一緒に、もう一度考え直してみたいと語り、議論を締めくくりました。
DATA
登壇者名 栗栖 良依 プロフィール 認定NPO法人スローレーベル理事長
東京造形大学にてアートマネジメントを学ぶ傍ら、スポーツの国際大会や舞台制作の現場で実務を学び、長野五輪では選手村の式典・文化プログラムの運営に従事する。
2005-06年、イタリアのDomus Academyに留学し、ビジネスデザイン修士号取得。イタリアを拠点に世界30カ国でクリエイティブマーケティングのコンサルティングを実践するFuture Concept Labのトレンドリサーチャーとして世界各地を旅しながら、異文化・異分野の人や地域を繋ぎ、新しい価値を創造する活動を多方面で展開。
2008年より、国内の過疎化の進む地域で市民参加型エンターテイメント作品をプロデュース。2010年、骨肉腫を患い右下肢機能が全廃し、障害福祉の世界と出会う。2011年、アーティストと福祉施設や企業を繋ぎ、新しいモノづくりとコトづくりに取り組む「スローレーベル(SLOW LABEL)」を設立。2014年、障害者と多様な分野のクリエイターを繋ぎ新しい芸術表現を生み出す国際芸術展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を立ち上げ、総合ディレクターを務める。障害のある人が芸術活動に参加するための環境整備や支援人材の育成に取り組む。日本財団DIVERSITY IN THE ARTS舞台芸術部門プログラムアドバイザー。第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」、タイムアウト東京LOVE TOKYO AWARD2016「Face of Tokyo」受賞。東京2020総合チーム クリエイティブディレクター。登壇者名 安宅 和人 プロフィール 慶應義塾大学 環境情報学部教授 / ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)
データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学。
2001年春、学位取得(Ph.D.)。ポスドクを経て2001年末マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域中心メンバーの一人として幅広い商品・事業開発、ブランド再生に関わる。
2008年よりヤフー。2012年7月よりCSO(現兼務)。全社横断的な戦略課題の解決、事業開発に加え、途中データ及び研究開発部門も統括。2016年春より慶應義塾大学SFCにてデータドリブン時代の基礎教養について教える。
2018年9月より現職。内閣府 総合科学技術イノベーション会議(CSTI)基本計画専門調査会 委員、官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM)AI技術領域 運営委員、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長なども務める。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版、2010) 『シン・ニホン』 (NewsPicksパブリッシング2020)登壇者名 出口 敦 プロフィール 東京大学大学院新領域創成科学研究科 研究科長・教授 / 柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長
1990年東京大学大学院博士課程修了(工学博士)。東京大学助手、九州大学助教授、教授などを経て2011年より現職。
専門分野は都市計画学、都市デザイン学。都市のデザイン・マネジメント、スマートシティについての研究を進めている。
千葉県柏市柏の葉にある柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長、スマートシティコンソーシアムのコーディネーターなどを務め、全国のアーバンデザインセンターの普及やネットワーク化を進める一般社団法人UDCイニシアチブの代表理事を務める。