MAGAZINE
いろいろな個性への対応は、社会のアップデートに繋がる
議論はまず、森さんが安宅さんに投げかけた「様々な分断を価値に変えていくために、私たちはどのように意識を変えていけばいいのか」という質問からスタートしました。
安宅さんは片目に視野欠損があることを打ち明けて、これもある種のダイバーシティだと語り始めました。そして、「こういう話をマイノリティ問題みたいに考えていること自体が、とんでもない問題。これ実はね、リードユーザー(市場を先導するユーザー)なんです」と話します。

「こういういろんな人に対応して優しい社会を作る事は実は社会のアップデートであって、そういうふうに考えてやっていく中で当たり前のように富が生まれるはずです」
安宅さんはさらに、特定の形しか受け入れないみたいな発想は余りにも旧時代的で、「違いが価値になるようにしてあげる事」が必要であり、それが社会の刷新に繋がると語りました。
森さんから安宅さんの話についての感想を求められた栗栖さんは、スローレーベルがやっているのも、まさにそういう事だと答えました。

そして、従来からいろんな人を繋げて価値を生み出す活動をしていたけれども、健常者と呼ばれる、同じように見て、同じように聞いて、同じように世界を捉える人たちとの掛け算で生まれるものよりも、障害のある人と一緒に掛け算をする方が、自分には思いつかないものがたくさん生まれてきて、よほどこっちの方がワクワクすると話しました。
公・民・学が融合して取り組む街づくり
二人の話についての感想を森さんから聞かれた出口さんは、「インクルーシブ」という考え方に言及しました。そして、互いの違いを認め、互いに協力しあっていく考え方がインクルーシブで、それが今都市に課せられている課題だと語ります。

次に森さんはKASHIWANOHA INNOVATION FES 2021のOPENING TALKでリンダ・グラットンさんが「都市やコミュニティで挑戦しやすい環境を作るには多彩なロールモデルが必要」と語ったことに触れ、都市デザインの専門家の立場から、それにどう取り組んでいるか尋ねました。
出口さんは2005年につくばエクスプレスが開通したのをきっかけに開発が進んだ柏の葉はまだ新しい街で、公・民・学が融合して街づくりの取り組みを行っており、その中心になっているのがUDCKだと説明しました。
柏の葉キャンパス駅を中心にした柏の葉スマートシティの取り組みでは、「エネルギー」「モビリティ」「パブリックスペース」「ウェルネス」をキーワードに、新技術やデータを活用した都市の課題解決を進めています。出口さんはそれぞれの取り組み内容について具体的な事例をスライドを使いながら説明し、次のように語りました。

「このような取り組みは大手ディベロッパー単独でもできませんし、行政だけの力でもできない。そこにやっぱり大学の技術や知見を入れ、新しく住み始めた人のコミュニティの力を育ててそれらを組み合わせて街を作っていく。それを、UDCKを中心に進めているところです」
DATA
登壇者名 栗栖 良依 プロフィール 認定NPO法人スローレーベル理事長
東京造形大学にてアートマネジメントを学ぶ傍ら、スポーツの国際大会や舞台制作の現場で実務を学び、長野五輪では選手村の式典・文化プログラムの運営に従事する。
2005-06年、イタリアのDomus Academyに留学し、ビジネスデザイン修士号取得。イタリアを拠点に世界30カ国でクリエイティブマーケティングのコンサルティングを実践するFuture Concept Labのトレンドリサーチャーとして世界各地を旅しながら、異文化・異分野の人や地域を繋ぎ、新しい価値を創造する活動を多方面で展開。
2008年より、国内の過疎化の進む地域で市民参加型エンターテイメント作品をプロデュース。2010年、骨肉腫を患い右下肢機能が全廃し、障害福祉の世界と出会う。2011年、アーティストと福祉施設や企業を繋ぎ、新しいモノづくりとコトづくりに取り組む「スローレーベル(SLOW LABEL)」を設立。2014年、障害者と多様な分野のクリエイターを繋ぎ新しい芸術表現を生み出す国際芸術展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を立ち上げ、総合ディレクターを務める。障害のある人が芸術活動に参加するための環境整備や支援人材の育成に取り組む。日本財団DIVERSITY IN THE ARTS舞台芸術部門プログラムアドバイザー。第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」、タイムアウト東京LOVE TOKYO AWARD2016「Face of Tokyo」受賞。東京2020総合チーム クリエイティブディレクター。登壇者名 安宅 和人 プロフィール 慶應義塾大学 環境情報学部教授 / ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)
データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学。
2001年春、学位取得(Ph.D.)。ポスドクを経て2001年末マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域中心メンバーの一人として幅広い商品・事業開発、ブランド再生に関わる。
2008年よりヤフー。2012年7月よりCSO(現兼務)。全社横断的な戦略課題の解決、事業開発に加え、途中データ及び研究開発部門も統括。2016年春より慶應義塾大学SFCにてデータドリブン時代の基礎教養について教える。
2018年9月より現職。内閣府 総合科学技術イノベーション会議(CSTI)基本計画専門調査会 委員、官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM)AI技術領域 運営委員、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長なども務める。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版、2010) 『シン・ニホン』 (NewsPicksパブリッシング2020)登壇者名 出口 敦 プロフィール 東京大学大学院新領域創成科学研究科 研究科長・教授 / 柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長
1990年東京大学大学院博士課程修了(工学博士)。東京大学助手、九州大学助教授、教授などを経て2011年より現職。
専門分野は都市計画学、都市デザイン学。都市のデザイン・マネジメント、スマートシティについての研究を進めている。
千葉県柏市柏の葉にある柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長、スマートシティコンソーシアムのコーディネーターなどを務め、全国のアーバンデザインセンターの普及やネットワーク化を進める一般社団法人UDCイニシアチブの代表理事を務める。