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CROSS TALK 5にはグローバルヘルス研究の第一人者である渋谷 健司さんと、ITとウェルビーイングのあり方を精力的に研究しているドミニク チェンさんが登壇。コロナパンデミック下で起こったさまざまな分断に対し、グローバルヘルスや情報社会におけるウェルビーイングの視点から議論しました。二人は、ガバナンスやシステム、法制度に欠陥があると現状を分析し、個のダイバーシティを尊重すること、ITに対する社会的な議論を醸成していくことが、ウェルビーイングな都市の実現には必要だと語りました。
FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。
渋谷 健司氏 × ドミニク チェン氏
ITリテラシーを高め、個を互いに認め合う。
ウェルビーイングな社会はそこから始まる。
目に見えないプロセスに注目しないと分断は解消できない
「FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。」をテーマにしたCROSS TALK 5には、公衆衛生学やグローバルヘルス研究の第一人者である渋谷 健司さんと、デジタル時代の社会デザインとウェルビーイングのあり方を研究しているドミニク チェンさんが登場しました。
二人は、医療ジャーナリスト/キャスターの森 まどかさん司会進行のもと、コロナ感染拡大を機に広がった社会的分断を乗り越える方策や、ウェルビーイングな社会を実現するために何をすべきかなどについて、議論しました。
最初に自身の経歴や現在の仕事の内容について説明したのは、渋谷さんです。
渋谷さんは東京大学教授、CEPI(感染症対策イノベーション連合)科学諮問委員、キングスカレッジ・ロンドン公衆衛生研究所所長などを歴任。現在は東京財団政策研究所の研究主幹や福島県相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長を務めています。コロナウイルス感染が広がる中でグローバルヘルスの専門家として「ワクチンがゲームチェンジャー(物事の状況や流れを変えるもの)になる」と考え、相馬市での取り組みに力を入れています。
「エレガントで、差別化できて、価値あるものに興味がある」という渋谷さんは、その中でも人の命を救えるテクノロジーや施策を追求してきた、と語りました。
SNSなどのインターネット上のコミュニケーションは今まである意味無批判にコミュニケーションを助けるものだと思われてきました。しかし、実はさまざまな設計上、運用上の問題があるとドミニクさんは捉え、人々の心を阻害しないテクノロジーの在り方とはどういうものか研究しています。
その一つとして「社会的存在感」、すなわち互いの気配をリモートでどう感じられるかについて、タイピングしたテキストとそのプロセスを記録して再生できる「TypeTrace」というシステムを使った認知心理実験を行っています。
「あいちトリエンナーレ2019」では、このシステムを使って一般参加型のインスタレーションを行いました。このインスタレーションでは、「自分が10分以内にいなくなるとしたら、どういうメッセージを書きますか」という特殊な設定で2000人以上にテキストを書いてもらい、そのプロセスを一挙に全部再生しました。
ドミニクさんは、「このように人の目に見えないミュニケーションのプロセスにもっと注目しないと、社会的分断は乗り越えられないだろう」と指摘しました。
DATA
登壇者名 渋谷 健司 プロフィール 福島県相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長 元WHO事務局長上級顧問
医学博士(公衆衛生学)。世界保健機関(WHO)シニア・サイエンティスト(保健政策のエビデンスのための世界プログラム)や、東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授を歴任。
現在は、相馬市 新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター・センター長。
死亡・死因分析、疾病の負担分析、リスクファクター分析、費用効果分析、保健システムパフォーマンス分析などを専門分野とする。登壇者名 ドミニク チェン プロフィール 早稲田大学 文化構想学部 准教授
博士(学際情報学)。テクノロジーと人間の関係性を研究。
インターネット時代のための新しい著作権ルールを提供する、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現コモンスフィア)の理事や、「人間の自然に近いコミュニケーション」をテーマに、ソフトウェア開発やサービス展開を行う株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、早稲田大学文化構想学部准教授に就任。日本語、フランス語、英語が話せる。