CROSS TALK 5
FUSION of well-being グローバルヘルスを実現する、情報の在り方。

公共の利益という視点でITを議論する必要がある

 ドミニクさんは渋谷さんの「テクノロジーはツールに過ぎない」という話に賛同し、SNSは「包丁みたいなものだ」と言います。包丁は料理を作る場合もあれば、人を傷つけるものにもなりうる。問題は、SNSに代表されるコミュニケーションツールは、包丁や自転車のように人が使わないと動かないものではなくて、向こうから働きかけて情報を引き出そうとするように設計されていることだと指摘します。

 続いてドミニクさんはジェームズ・ブライドルというジャーナリスト兼アーティストが書いた『ニュー・ダーク・エイジ』という本に触れ、識字率が1%にも満たなかった中世の暗黒時代に喩えて今が新しい暗黒時代と呼ばれるのは、「自分たちが見ている情報のソースがわからない、どうしてその情報が自分のスマートフォンの画面に現れているのかわからないから」だと説明しました。

 そして、画面に表示された内容を私たちは事実だと思ってしまうけれども、実はその背後にはすべて企業の都合によるロジックがあり、同じ家で暮らしている夫婦でさえ一方には反ワクチンの動画がトップに表示され、もう一方はワクチンを推奨する動画が表示されるということが世界中で起こっている、と指摘します。

 自分に届けられる情報の裏で何が起こっているかを理解しない限り、何が正しい医療情報かについて夫婦でさえ合意ができないこの現状を憂慮し、ドミニクさんは「改めてITリテラシー(ITを理解し、操作する能力)を広めていかないと、ヘルスリテラシー(健康情報を探し、理解し、適切な健康行動に繋げる力)も広がらない。そんな危惧を抱いています」と語りました。

 さらにドミニクさんは、「SNSには公益性のチェックもなく、法規制も技術に追い付いていないことにすら、一般的な利用者が気付けないようなブラックボックスになっている事が問題だ」と指摘し、公共の利益は何かというコモンズ(共有資産)の視点でITをめぐる社会的議論を醸成していくことが非常に大事だと強調しました。

個を尊重しなければ、共生はできない

 森さんは柏の葉のデータ利活用の街づくりについて説明したのち、渋谷さんとドミニクさんに感想を求めました。

柏の葉スマートシティは、デジタル先進国電子政府であるエストニアをモデルに個人主権のデータ利活用の街づくりを進めています

 これに対し、渋谷さんは「ただオプトアウト(ユーザーの許可なしに)してデータを取ってもいいという話ではなくて、そのデータをどう使って住民の方に返し、総体としてどうウェルビーイングを作り、他の都市と違う価値を生みせるかを本当に期待している」と答えました。
 
 ドミニクさんは「データを分析する側と、採取される側の二項対立にならないようにするにはどうすべきかを施策として進めると、情報技術も含めてコモンズとして発達できるコミュニティが作れる。利益追及だけを最優先してきた産業をロールモデルにするのではなく、今までにないITコミュニティを作ることが大事だ」と語りました。

 そして、ウェルビーイングを考える上で一番大事なのは、主観的な心の在り方だとドミニクさんは指摘し、次のように訴えました。

「コロナ禍で心の不調を訴える人が増えていて、同じ家族の中でもさまざまなパターンがあります。こういう新しい状況に突入している中で大事なのは、共通のルールを作るのではなく、隣にいる人や一緒に働いている人たちの心の目に見えない部分を気にかけて、話し合う事です」

 議論の最後に森さんは二人に柏の葉イノベーションフェス2021年のテーマである、『READY FOR FUSION?』に対する印象を聞きました。

 ドミニクさんは、「個人として尊重され、その上でどう共生していくかという、この順番がすごく大事だと思う」と語りました。

「その順番を無視して公共性やFUSIONと言ってしまうと、全体主義的になってしまう。異なる個のダイバーシティをまず互いに認め合い、意見が違うからと言って否定しない。その上でようやく互いにFUSIONできる、重なり合える領域が見つかると思います」

 渋谷さんも「FUSIONや共生という言葉は耳触りが良いが、ドミニクさんが話したように、互いの違いを認めないでただ集まるだけでは結局分断が悪化する」と述べ、そこを理解した上でFUSIONの可能性を探ることが大事だと指摘しました。

そして最後に、「コロナが起こり、今まで当たり前だと思っていた事が実はそうではなかったと明らかになった。自分の拠り所は何か、自分はどう生きたいのかについて、改めて考える良い時期ではないか」と語り、議論を締めくくりました。

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