Cross Talk 1
FUSION of benefit 理論の実装が切り拓く、未来社会。

拒否する権利を丁寧に設計することが大切

 議論はこの後、マイナンバー制度が普及しない原因や、コロナの位置情報アプリが普及しない原因などに及び、コミュニティにおけるルールづくりの話に展開して行きました。この中で、小島さんは落合さんの意見に加えて2つの問題点を指摘しました。

 小島さんはまず、コロナワクチン配分に関して自治体毎のハンドリングがバラバラで混乱してしまったことを例に挙げ、どういう団体、どういうレベルの人が意思決定をする権限を持つのかがコロナ禍で問題になったと話しました。

 2つ目に小島さんが指摘したのは、情報提供のデフォルトをどう設定するかという問題です。

「社会全体的にやってほしいけれど強制できないときに、比較的よく使われるのはデフォルトをどうするかということです。例えば臓器移植では、どこの国でも臓器が足りないという問題があります。それを増やす一つの方法は、単純に臓器移植の意思表示に関してイエスをデフォルトにしておくことです。ちょっと変えるだけで、場合によっては移植の数が増えます」

 強制することはできないけれども、全体としてこの方向に進めば良いというようなことがあるときには、このようなやり方を積極的に使うことも考えられのではないかと小島さんは提言します。

 次に議論は肖像権の問題について移って行きます。

 落合さんは、現在のように自分の周りに無数のカメラがあり、それで日常的に映像が撮影されている中で、自分が映らない権利をどう保証するのかが非常に難しいと話します。

 小島さんはある意味で伝統的なプライバシーというものが制御できなくなりつつあるかもしれないと指摘しました。

 落合さんは「昔は写真や動画は体から切り離された1個の肖像として成立したけれども、今はその肖像がなければ機械が制御できなくなっている。そうなるともう既存のオペレーションは破綻している。だから、それから逃れる手段だけを丁寧に設計しないといけない。拒否する権利が大切だ」と言います。

 小島さんはさらに、権利関係がはっきりしないことも大きな問題だと付け加えました。誰が権利を持っているかわからないから使えない、あるいは逆に例えばある企業が勝手に誰かの写真や映像を使って権利を侵害してしまう。そういうことを防ぐためには、誰かにきちんと権利を持たせることができる、そういう技術が重要だと小島さんは指摘しました。

ヒューマン・コンピュータ・インタラクション設計にはライフスタイルが重要

 トークも後半に差し掛かり、森さんは柏の葉のデータ利活用の取り組みについて説明した後、二人に感想や印象を聞きました。

トーク後半では司会の森さんが、個人データ主権、分散型管理のデータプラットフォームなど、柏の葉におけるデータ利活用の取り組みについて、二人に説明しました

 小島さんは柏の葉の説明を聞いて、以前住んでいたボストン郊外の地域が、マサチューセッツ工科大学とデベロッパーが協力して再開発し、急に綺麗になったことを思い出したと振り返り、こういう街が成功するためにはさらに例えば独身の人がフラッと出かけて騒げるようなクラブがあるなど、住んで楽しい街にするための仕掛けが必要だと話しました。

 落合さんも、ライフスタイルの重要性に言及しました。今までヒューマン・コンピュータ・インタラクションはヒップスター(流行に敏感な人、進んでいる人)な感じだったと言います。「デジタルこうなるぜ!」というのをやっていくと、ちょっとおしゃれな人たちが集まってモノを作るのがトレンドだったと落合さんは振り返ります。そこが読めなくなった時代にどうやって設計してゆけば良いかをテーマとして考えるうち、ライフスタイルが重要だという答えにたどり着いたそうです。

「データとインタラクションするときに、どんなライフスタイルの人たちが、どうやって暮らしているのか、その生活の見え方の方が実は行政サービスや、個人情報の利活用の話よりも重要じゃないかと個人的には思います」

 森さんからの最後の質問、『READY FOR FUSION?』というテーマについての感想を聞かれ、二人は次のように答えてトークを締めくくりました。

 小島さんが触れたのは、公民学連携の大切さです。

「FUSIONということで言うと、やっぱり民間も政府関係の人も、私のような研究者も一緒にできることがいっぱいあると思います。そういう意味では、月並みですけどFUSIONを私たちもやっていきたいと思っていますし、非常に期待しています」

 落合さんはみんながFUSIONしてケーススタディーを増やして欲しいと、エールを送りました。

「n人に対する研究より1人に対する研究に意義があると最近は思っているので、ぜひローカルでそういった新しい取り組みをされるケーススタディーがいっぱい出てきて欲しいと思っています。みんなFUSIONしてケーススタディーを作りましょう」

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