MAGAZINE
CROSS TALK 6
FUSION of individuality 未来を変える個性の育み方と、描く次の社会。
大人も楽しそうに生きられる社会をみんなで考える必要がある
北海道のプログラムの話に触れながら、森さんは「多様な才能が社会の中に生まれてくると思うが、次のステップとして社会の中に出て行くときにどんなスキルや、どんな力が必要になるか」と中邑さんに尋ねました。
中邑さんは「多様な社会で生きる力というものが、具体的に何かあるようにも思えない。ただその中に身を置いておくだけ、そのことが重要だろうと思います」と答えます。
今学校の中で行われている多様性教育というものは、人種の理解、障害の理解、性への理解というものばかりになっている。ところが、「自分の隣にいる子どもの事が理解できていない」と中邑さんは指摘します。
自分と違う事、クラスのみんなと違う事をやっている子どもは許せなくなっていて、これについては「子どもに何が必要かではなく、親や学校の考え方を変えなければならない。多様性と言いながら、結局そういう枠の中、こちら側と違う枠の中にいる人たちを理解しようというだけで、こちら側の子どもが置き去りにされていることが一番の課題」だと中村さんは語ります。
森さんはこの中邑さんの発言を受けて、親や社会がどう変われば良いかを尋ねました。
中邑さんは、「大人が楽しそうに生きればいいんだろうと思います。何かこうモデルとなる大人がいればいいんだろうと思うんです」と答えました。
新千歳空港に集まった子どもたちから感想を聞いた時に多くの子どもたちが、「こんな楽しそうな生き方をする大人に初めて出会いました」と話したことに、中邑さんは驚いたと言います。
「大人も楽しそうに生きられる社会はどういうものかを、みんなで考えていかなければならない。それは今あるような能力主義の社会ではないと思う、いかがでしょう」と中邑さんは問いかけました。
プロセスが失われてしまう事を危惧している
議論も後半に差し掛かり、森さんは柏の葉スマートシティの説明をした後、感想を二人に尋ねました。
中邑さんは、つくばエクスプレスが開通する前から柏の葉に通っていて、綺麗なすみやすい街になった事を実感するとともに、少し気になる点があると答えました。
「スマートシティやバリアフリーの街づくりについて、それだけでいいのだろうかと思うところがある」と中邑さんは語り、その理由を次のように説明しました。
「すべてブラックボックス化していて、人が考えなくなっていく。特に、子どもがその中で生活するってどうなんでしょうね。何もかもが自動的に得られ、(何かを得るための)プロセスが失われてしまうことを危惧しています。教育的にはそこの部分に何らかの工夫がこれから必要なんじゃないかと思います」
長谷川さんは、駅前にサイエンス・エデュケーション系の施設があると聞いて、親や学校だけではない教育のチャンスがあるのが羨ましく感じたとコメントしました。
続いて、視聴者から寄せられた「子どもを親の持ち物化させないために、親が、社会がすべきことは何でしょう?」という質問に対し、中邑さんは「親がやはりその社会の中で生きているということを子どもに示していく。地域活動への参加というのもその一つで、意図的に仕掛けていかないといけないと思います」と答えました。
長谷川さんは、「子どもの意見をちゃんと聞いてあげる。子どもが言っている事が本当にダメなのかを、自分に問い直す作業を何回かしてほしい」と語りました。
「大人も子どもも楽しめる街になるには、どのような要素や仕掛けが必要でしょうか」という質問に、長谷川さんは「都市は基本的には大人向けに作られているので、安全を担保しながら子どもが自由に動ける都市はどんなものか考える必要がある」と答えました。
中邑さんは「街にも多様性が必要だと思う」と答え、柏の葉の中だけに閉じるのではなく、つくば市や秋葉原と一緒にプログラムを組むことも考えられると提案しました。
「この柏の葉は特色ある街になっていますけど、すぐ秋葉原にも行けるし、すぐつくばにも行ける。だからつくばや秋葉原と一緒になって何かプログラムを組んで、向こうの子もこっちにやってきて、移動が起こるような仕掛けがあることで、多様な体験がここに住んでいてもできるんじゃないかと思います」
DATA
登壇者名 中邑 賢龍 プロフィール 東京大学 先端科学技術研究センター 教授
香川大学助教授、米カンザス大学・ウィスコンシン大学客員研究員などを経て、2008年から現職。
テクノロジーで障害のある子どもたちの教育を支援する「魔法のプロジェクト」や異才発掘プロジェクト「ROCKET」などを立ち上げ、2021年6月より「ROCKET」を発展させた「LEARN」を開始。心理学・工学・教育学・リハビリテーション学だけでなく、デザインや芸術などの学際的・社会活動型アプローチによりバリアフリー社会の実現を目指している。登壇者名 長谷川 愛 プロフィール アーティスト。2012年英国Royal College of Art, Design Interactions にてMA(Master of Arts)修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Lab, Design Fiction Groupにて研究員、2016年MS(Master of Science)修士取得。2017年4月から2020年3月まで東京大学 特任研究員。2019年から早稲田大学非常勤講師。
2020年から自治医科大学と京都工芸繊維大学にて特任研究員。「Expand the Future(未来を拡張する)」というコンセプトのもと、アートやデザインを通じて日常の当たり前に問題提起を行う。作品が扱う社会的テーマは広範に渡るが、近年はバイオテクノロジーの進歩がもたらす未来の生殖や家族のあり方について問う作品を多く発表している。