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イノベーションを起こすにはダイバーシティが必要
森さんは環境問題を考えるときに無垢なる自然に帰ろうといった話だけでなく、「サイエンスやケミストリーといった人間の英知を組み合わせていかなければならない」と松島さんが以前インタビューで語っていたことに触れ、それについて聞かせて欲しいと頼みました。
松島さんは、環境問題にとっても分断があるとすれば、単に環境問題に対して意識があるかないかという分断だけではなくて、「環境問題を解決するには自然に帰るべきだという考え方と、サイエンスやテクノロジーによってイノベーションを起こし、解決すべきだという考え方との分断もある」と指摘します。
『WIRED』で「DEEP TECH FOR THE EARTH」という特集のテーマを組んだのも、あえてそういう環境文脈を、もう一度サイエンスの基礎研究などとどう繋げていくのか、日本社会の中でその文脈を作っていかないといけないと考えたからだと松島さんは説明します。
マクティアさんは松島さんの意見に賛同し、人間はカテゴライゼーションすることを求める傾向があるけれども、イノベーションはいろんなセクターの人が集まっているからこそ可能になると話しました。
「イノベーションを起こすには、必ずダイバーシティが必要。人種とかもそうですけど、そこで大事なのが経験とか視点。テクノロジーに特化したプロジェクトがあったとしても、例えば自然からの観点を提供できるチームメンバーがいた方がいろんな新しいアイディアが生まれ、シナジーが生まれると思います」
ウェルビーイングなくして環境問題の解決はない
森さんは、住んでいる環境によっても住民の環境問題に対する意識は変わるのではないかと問いかけました。
松島さんはこの問いに対して、「ウェルビーイングなくして環境問題の解決はないという事を改めて思いました。都市の方があらゆることが効率的で、これからどんどん都市化が進んでいく中で、自分たちが意識的に生活の中にウェルビーイングを取り入れることは最初にできるアクションだし、それは自分や家族がどういう生き方をしたいのかを前向きに考える事だと思います」と答えます。
マクティアさんは都市開発の話にも繋がるのではと前置きをした上で、次のように話しました。
「自然と触れ合う場や機会を作るのが大事だと思います。週末に近くの公園に行ったり、もうちょっと遠くまで出かけて山に行ったり海に行ったりする機会があるだけでも、人間というのは自然から切り離されたものではなくて共存している、という事を感じるきっかけをもらえると思います」
議論も終盤に差し掛かり、森さんは柏の葉スマートシティでの環境問題への取り組みを紹介した後、二人に感想を聞きました。
マクティアさんは、「テクノロジーはただただイノベーションのために開発するものではなく、人々の生活を豊かにするために開発するもの。素敵な街、住みやすい街づくりに、テクノロジーをうまく活用されている印象を持ちました」と答えました。
松島さんは、「個人がデータ主権を持ちながら、この一つの限られた街、フィールドの中でどれだけそれを活用できるのか、すごく大きなチャレンジだと思う」と答えました。
その上で、利用できるデータをどうやって集め、それをみんながどう使うかは、一人ひとりの価値基準の問題であると同時に、一つのコミュニティ、ネイバーフッドとして、この柏の葉という街がどう関わっていくかがすごく重要だと指摘しました。
3.5% ルールで社会が変わる
質問コーナーで視聴者から寄せられた「みんなが環境問題に取り組むにはどうすれば良いか」という質問に、松島さんはゲーミフィケーションのように楽しんで取り組める仕組みを作れば良いのではないかと提言しました。
「資本主義が発達するから環境問題が無視されるという事ではなく、新たな面白いルールを持って来て、環境と経済を両立しながらどんどん資本が回っていくことの楽しさみたいなもの、僕らの住んでいる地域が何か良くなっているよねということでもいいし、何かそういう仕組みで楽しさを作らなければいけないと思います」
マクティアさんは、3.5%ルールが大事だという話をしてくれました。ハーバード大学の研究によって、人口の3.5%の人たちが社会的アクションに積極的に参加すれば、確実に社会の変化に繋がる事が明らかになっているそうです。「いきなり全員を巻き込もうとしてもそれは不可能で、一部の人がまず一生懸命やって、それを発信する事で社会全体が変わっていくことに繋がる」とマクティアさんは話しました。
議論の最後に森さんは『READY FOR FUSION?』というテーマにどんな印象を持ったかを二人に尋ねました。
マクティアさんは、「いろんな人たちがチャレンジしてみる場があると、社会も変わり、結果にも繋がると思います。FUSIONによるイノベーションができる場作りとか、その事例を出していく事が大事だと思いました」と答えました。
松島さんは、ニーチェの言葉を引用して、議論を締めくくりました。
「どういう未来を自分たちが描くかによって今日の一歩が決まって来ます。よく引用するんですけど、ニーチェが『過去が現在に影響を与えるように、未来が現在に影響を与えている』と言っています。そういう未来を描くのがすごく大切で、多分柏の葉ではそういうことをみんなで描いているからこそ、今日の一歩、今年の一歩があり、まさに実装の段階に入ってきていると思います。常に未来と今を包含しながらやっていくと、素晴らしい運動体になるんじゃないかと注目しています」
DATA
登壇者名 松島 倫明 プロフィール 『WIRED』日本版 編集長
テックカルチャー・メディア『WIRED』日本版 編集長として「ニューエコノミー」「デジタル・ウェルビーイング」「ミラーワールド」などを特集。東京都出身、鎌倉在住。
1996年にNHK出版に入社、翻訳書の版権取得・編集・プロモーションなどを幅広く行う。2014年よりNHK出版放送・学芸図書編集部編集長。手がけたタイトルに、デジタル社会のパラダイムシフトを捉えたベストセラー『FREE』『SHARE』『MAKERS』や『限界費用ゼロ社会』など多数。
一方、世界的ベストセラー『BORN TO RUN 走るために生まれた』の邦訳版を手がけて自身もランナーとなり、今は鎌倉に移住し裏山のトレイルを走っている。
『脳を鍛えるには運動しかない!』『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』『マインドフル・ワーク』『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』など身体性に根ざした一連のタイトルで、新しいライフスタイルを提示してきた。2018年6月より現職。登壇者名 マクティア・マリコ プロフィール 一般社団法人 Social Innovation Japan 代表理事・共同創設者 mymizu 共同創設者
マイボトルを持参すれば無料で給水できるスポットを簡単に検索できるアプリ『mymizu』をはじめとするサステナブルな取り組みが評価され、昨年11月にグッドライフアワードの環境大臣賞を受賞。
個人だけでなく国に対しても環境意識改革を呼びかけ、環境保護のムーブメントを牽引する。