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前向きなマインドセットに変える必要がある
司会の森さんはまずマクティアさんに、年間1900から2300万トンのプラスチックゴミが河川や海に流出していることに触れ、「日本は国民1人当たりのプラスチック包装容器の廃棄量が世界一なのでこの問題の当事者と言ってもいいが、生活者レベルではこの問題についての理解が届いていない印象を受ける。こうした現状についてどう考えているのか」と質問しました。
この質問に対してマクティアさんは、「廃棄したプラスチックが実際にどうなっているかが理解されていない点が問題だ」と答え、一人ひとりが勇気を持って行動を起こせるように、事例を紹介していく必要があると付け加えました。
マクティアさんの答えを受けて森さんはさらに、「5年前10年前と比較するとテレビメディアや雑誌、新聞などを見ても環境のことが取り上げられ、情報発信されているケースが非常に多くなった。問題意識自体は確実に高くなっているのに、行動とのギャップがあるが、どういった原因があるのか」と質問しました。
マクティアさんは、それはマインドセットの問題だと答えます。「何かを犠牲にして環境のためにやらなければいけないという義務感や、ネガティブな気持ちには人を動かす力はない。逆にこの方が魅力的で、こういう世界や社会に住みたいというポジティブな強い目標があれば、誰でも取り組めるのではないか」と、マクティアさんは言います。
ネットワーク効果により新しいコモンズが生まれている
続いて森さんはマクティアさんにmymizuアプリを立ち上げたときに、どのように使ってもらうことを意図してデザインしたかを尋ねました。
マイボトルを勧めるのであれば、給水できる場所を簡単に探せるようにしないとマイボトルを持ち運ぶ習慣が広まらないだろうと考え、「誰でも持っているスマホを通して、簡単に給水できる場所を探せる仕組みにした」とマクティアさんは説明します。
給水できる場所は公共施設だけではなく、おしゃれなカフェやIKEAのような大手企業、田舎のそば屋さんのようなお店にも協力してもらっています。公共施設は一般のユーザーから投稿してもらい、お店は自ら登録してもらうような形になっており、全国で約1700のお店が登録しているそうです。
もともとは環境問題に対して意識の高いお店からスタートし、「新しい人たちとつながる機会が生まれる、地域コミュニティに貢献したい、mymizuのステッカーが店頭に貼ってあるのを見て自分たちもやりたいと申し出たなど、さまざまな動機から参加するお店が増えて、街ごとに広まっている」とマクティアさんは話しました。
松島さんはmymizuの取り組みに対し、「ある種のネットワーク効果を使うことで利便性を感じてより多くの人が参加し、新しいコモンズ(共有資源)が生まれているのが素晴らしい」と感想を述べました。そして、特に素晴らしい点として、自分の中での街の地図が変わる可能性を挙げました。
「mymizuを使うことによって、自分の行動エリアの中で全然違う関係性とか、自分の中での地図の組み替えみたいなものができて、そこにすごいプラスの価値が生まれて、その関係性が面白いからさらに価値を作り出していると思いました」
DATA
登壇者名 松島 倫明 プロフィール 『WIRED』日本版 編集長
テックカルチャー・メディア『WIRED』日本版 編集長として「ニューエコノミー」「デジタル・ウェルビーイング」「ミラーワールド」などを特集。東京都出身、鎌倉在住。
1996年にNHK出版に入社、翻訳書の版権取得・編集・プロモーションなどを幅広く行う。2014年よりNHK出版放送・学芸図書編集部編集長。手がけたタイトルに、デジタル社会のパラダイムシフトを捉えたベストセラー『FREE』『SHARE』『MAKERS』や『限界費用ゼロ社会』など多数。
一方、世界的ベストセラー『BORN TO RUN 走るために生まれた』の邦訳版を手がけて自身もランナーとなり、今は鎌倉に移住し裏山のトレイルを走っている。
『脳を鍛えるには運動しかない!』『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』『マインドフル・ワーク』『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』など身体性に根ざした一連のタイトルで、新しいライフスタイルを提示してきた。2018年6月より現職。登壇者名 マクティア・マリコ プロフィール 一般社団法人 Social Innovation Japan 代表理事・共同創設者 mymizu 共同創設者
マイボトルを持参すれば無料で給水できるスポットを簡単に検索できるアプリ『mymizu』をはじめとするサステナブルな取り組みが評価され、昨年11月にグッドライフアワードの環境大臣賞を受賞。
個人だけでなく国に対しても環境意識改革を呼びかけ、環境保護のムーブメントを牽引する。