MAGAZINE
高性能有機半導体技術で、都市のあり方を変えていきたい
正確に対象物の温度や衝撃/加速度を測定できる
パイクリスタルは、東京大学大学院新領域創成科学研究科、同マテリアルイノベーション研究センター、三井不動産株式会社、株式会社日立物流と共に、2020年から2021年にかけて、イノベーションフィールド柏の葉の枠組みを利用し、エリア内鮮魚物流の実証実験、長距離鮮魚物流の実証実験のほか、一般冷蔵品物流の実証実験、医薬品物流の実証実験を行いました。
この一連の実験で使われたのが、厚さ約2ミリのクレジットカード大のフィルムに温度や振動など複数のセンサを搭載し、通信機能を持たせた「フィルム状トレースタグ」です。
鮮魚や医薬品の物流においては、輸送中の温度管理がますます重視されるようになっています。また、精密機器等の輸送においては、繊細な機器の破損を避けるため、衝撃や振動を極力抑えることが求められます。しかし、輸送する荷物の輸送中の温度情報や、荷物に加わる衝撃/加速度を正確に測定し、記録することは、コストやセンサデバイスの使い勝手の問題から、現場への導入が進んでいません。今回実験で使われたフィルム状トレースタグは、これらの課題を解決するために開発されたものです。
今回の実証実験からはフィルム状のセンサデバイスは測定対象と密接に設置できるため、従来品よりも温度変化に対する応答性が早く、正確に対象物のセンシングができるなど、開発の狙い通りの結果が得られました。
リユースシステムでタグの品質を担保
伊勢さんは一連の実証実験の結果、フィルム状のセンサデバイスであれば対象物のデータを正確に把握できることが明確になったと、考えています。今後は、特に個包装・商品毎の物流中の状態をきちんと測定・把握し、トレーサビリティーを実現できるシステムの構築を進める予定です。
その目標に向けて解決しなければならない課題はいくつかあります。まず、開発したフィルム状トレースタグの耐久性評価を行うことです。実際に使ってもらえる商品として社会に出すには、実用に耐えるかどうかの耐久性・信頼性が問われます。
ただし、既存の温度センサデバイスのような高い品質を満たさなくても良いのではないかと、竹谷教授は判断しています。
「例えば、運送をする間に温度を測るといっても、せいぜい1週間程度です。しかし、普通の温度センサデバイスの場合、3年から5年は保証しますという考え方を前提に作られています。まずは従来品と同じような耐久性・信頼性のテストは行いますが、抜本的な低コスト化を実現しようとすると、本当にそれだけの品質が必要なのかを考える必要があります」
安ければそれだけ導入しやすいという面もあるため、自分たちで基準を設定し、それをスタンダードにしていくということも、竹谷教授は考えています。今回テストに使用したフィルム状トレースタグは、50回程繰り返し使えるということを基準に開発しています。
できるだけ早く市場に投入することを考え、1週間程度使ってテストしたものは、パイクリスタルに一度戻ってくる仕組みにし、点検・リセットしてまた次の顧客に使ってもらうことを考えています。こうすることにより、耐久性のテストをしながら市場に導入することができます。リユースを前提にすれば、1回あたりの使用コストが自動的に下がります。品質保証の問題と、コスト削減を両立させようという考え方です。
「今まで使われている物流タグというのは、顧客の使いやすさを優先して、使い捨てを前提にしたものでした。しかし、これからの世の中では環境のことを考えてリユースを前提にする方が、正しいのではないかと思います」。竹谷教授はこう説明します。
DATA
会社名 パイクリスタル株式会社 設立日 2013年2月 所在地 千葉県柏市柏273番地1
シャープ株式会社柏事業所内36室電話番号 04-7136-2036 URL https://www.daicel.com/smart/pi-crystal/